「問う」ために、デンマーク

著:松尾 明子

もっと早く、もっと上に。

社会のなかで、早く物事を進め、利益や立場を上げることは、とても大切なことで、輝かしいことです。

同時に、都会の生活は忙しくなりがちで、自分の気持ちを「問う」という行為は、後回しにされてしまいがちなように感じます。

問う暇もなく、タスクは目の前にどんどん降りてくるし、その場の欲を満たしてくれるような魅力的な広告・コンテンツが目の前に溢れてきます。

こんな世の中だと受け止めながら、それでも私は「問う」ことを、がんばって大切にしたいと思っています。

今日は、そう思うようになったきっかけである、2020年のデンマークでの日々を、今日はみなさんに紹介したいと思います。

到着してすぐ、駅で撮った写真。
「あぁおしゃれな国に来た」と思いました。


なぜ「問う」ために、デンマーク?

2019年末、新卒から5年半勤めていた会社を卒業。

会社が辛かったかといえば、辛い時もありましたが、人として大好きな上司や先輩たちに恵まれ、たくさんの仕事を任せてもらったり、社内コンペに応募したり、温かくチャレンジングな日々を送っていたように、振り返っています。

大好きな上司だった、みほさん。
上司であり、お姉さんのような存在でした

会社で働いている時、ずっと持っていた、ちいさな問いがあります。

「このまま働き続けていいんだっけ」

「自分に合う仕事って、なんだっけ」

ふとした時に頭には浮かぶものの、目の前にあるタスクやいろんなものによってかき消され、なかなかじっくりとは向き合えない日々。

とはいえ、一度気づいてしまった問いを放置しておくこともできず、外で挑戦したいことも見つかったので、私は思い切って、会社を飛び出しました。

さてこれからどうやって過ごそうか、考えていた時にふと思い出したのが、以前友人から聞いていた、デンマークの「フォルケホイスコーレ」という学校でした。

なんとなく、この学校に行けば、ずっと向き合いたかった問いに向き合えるかも、そんな気がして、すぐに渡航を決めました。

「フォルケホイスコーレ」とは

多くの方には、耳慣れない単語かもしれないですね。

「フォルケホイスコーレ」とは、デンマークの国民学校です。17歳半以上であれば誰でも通うことができ、”人生の学校”とも呼ばれています。

成績や評価がなく、生徒のやりたいことや興味を尊重する授業スタイルや、クラスメイトとの共同生活(基本的には、寮生活)が特徴です。

フォルケに入学する理由は人それぞれですが、大学に入る前、仕事を変えたい時など、これからの人生を考えるために一度立ち止まりたい、と思って来ているクラスメイトが多かったように思います。

問いに向き合う、フォルケ生活


がむしゃらに走った会社員としての生活を辞め、東京を離れ、一旦すべてがリセット。「問う」ための障害だったものの多くが、目の前から無くなりました。

散歩の授業でよく歩いていた湖畔。
いい意味で「何もない」授業でした

着いた直後、自分の頭のなかにあった問いは「自分の興味って、なんだろう」

会社の人事配置により、マーケティングを担当してきた私ですが、実はずっと環境問題に興味がありました。

ただ会社員として働いている時は、それらについて触れる時間を持てておらず、本当に興味があるのか?こんな浅い気持ちだったら、興味あるとも言えないのかなぁ、とぐるぐるして、おしまい(笑)

この頭の中のループを抜け出すため、フォルケでは環境問題についての授業を受けたり、クラスメイトに議論を持ちかけてみたり。学んで話して、確かめることに挑戦しました。

最初こそ、自信が持てない状態でしたが、実際に行動してみると、学ぶたびに自分の中に熱を感じ、徐々に胸を張って「興味がある」と言えるように。

自分の話を先生やクラスメイト誰もが否定せず、大切に受け止めてくれたことも、大きな力になりました。

結果フォルケを卒業する頃には「やっぱり、私は環境に興味があるんだ。これからは仕事の中でも、環境問題に関わっていこう」という気持ちを、自然と抱いていたのが驚きです。

問いに出会う、フォルケ生活

入学してしばらくすると、来る前には想像もしていなかった問いにも出会いました。

当時の私のお部屋です。
窓から見える湖畔の景色が好きでした

きっかけは、フォルケで得た「暇」でした。
フォルケの時間割はかなりゆったり。授業がない日も多く、やるべきことはありません。

穏やかで、優雅。

でも会社を辞めたばかりの私にとっては、やることがないことが、そわそわ不安で、とても落ち着かないことでした。何もしないでいたら、ダメ人間になってしまいそうで、怖かったんです。

こんな気持ちがあったとは… 新たな自分に気づくと同時に、当たり前にあった仕事がリセットされたことで「私って本当はどんな風に1日を過ごしたいんだろう」「何を大事にして、日々過ごしたいのかな」といった問いを考えるようになりました。

カメラの授業。どの授業でも、
先生は教える人ではなく、一緒に探究する人でした。

問いへの答えを探求したり、新しい問いに出会ったり。フォルケでの経験は、その後の人生を進めていく上で、とても大切な、指針のようなものになりました。

問う場所をつくる挑戦、はじめました

フォルケホイスコーレでの生活から、丸2年。

卒業後もさまざまな問いに向き合った結果、自分が「フォルケのような、問いに向き合える場所をつくりたい」というビジョンに辿り着きました。

実際に今、北海道東川町で、フォルケをモデルにした人生の学校を、仲間とともに運営しています。名前はSchool for Life Compath。コンセプトは「私のちいさな問いから社会が変わる」。

人も自然も豊かな東川町だからこそできる学びをつくっています(撮影:東川町在住カメラマン 清水エリさん)

2022年3月現在、プログラム参加者は合計90名。日常のなかに余白をつくり、自分や社会に対する問いに素直に向き合える1週間〜3ヶ月のプログラムを作っています。

しあわせな暮らしは、問いからはじまる


私は今、とっても幸せです。もちろん日々辛いことも、しんどいこともありますが、問いに向き合った結果、だいすきな仲間たちと、同じ志を持って学校づくりに取り組める暮らしに辿り着き、やりがいと幸せを感じています。

私がそうであったように、きっと多くの人にとって、自分のちいさな問いに向き合うことは、その人にとっての幸せな暮らし・人生のスタートだと思っています。

そして、ひとりでも多くの人が幸せを感じられたら、一人一人で構成する社会も幸せに変化していくはず、と信じています。

問いに向き合う場所は、フォルケでなくても、どこでも良いと思います。おうちでも、近くの公園でも、行ってみたかったカフェでも。

このエッセイを寄稿するTOEも、都会の喧騒を離れて、静かに気持ちに向き合える、私のお気に入りの場所です。

どうかみなさんの問いへの旅が、楽しくなりますように。

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(Written by)

松尾 明子(Matsuo Meiko)

1991年静岡県生まれ。青山学院大学卒。在学中は、海外への強い好奇心から、アジアでの建築ボランティア、シアトルへの留学、友人との世界一周旅行など、各地を飛び回る。

新卒で、株式会社リクルート住まいカンパニー(現・株式会社リクルート)に入社。住宅相談アドバイザー、企画プランナーとしての経験を積み、2020年卒業。

卒業後は、デンマークのRønshoved Højskoleへの短期留学や、TOE LIBRARYのオープン時サポートなど、複数プロジェクトの立ち上げを経験。

現在は、北海道東川町にあるSchool for Life Compathにて学校づくりに熱を注ぎながら、広報・企画フリーランスとして活動中。

掲載日:2022年8月27日

初回公開日:2022年2月28日(旧WEBサイト)

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